資料室


「宝塚音楽学校」の制服について

学校概要

兵庫県宝塚市に校舎を置く宝塚音楽学校は、阪急電鉄が経営する宝塚歌劇団の団員を養成する2年制の学校である。

毎年3月に行われる入学試験で、約40名の新入生が選ばれる。生徒の身分は阪急電鉄の正社員である。

 

前身は大正2(1913)年7月に創立された「宝塚聖歌隊」だ。同年12月に「宝塚少女歌劇養成会」と改称され、大正7(1918)年に文部省認可による「私立宝塚音楽歌劇学校(TMOS)」が設立される。翌年に同校生徒と卒業生で宝塚少女歌劇団が組織された。

 

当初は学校と歌劇団は一体化した組織だったが、昭和14(1939)年に宝塚少女歌劇団と分離されて「宝塚音楽舞踊学校」と改称される。戦後の昭和21(1946)年に「宝塚音楽学校」と校名変更されて現在に至るが、昭和31(1956)年までは定員40名の1年制で、翌年から予科本科の2年制となる。

 

ちなみに、入学試験の受験資格は中学校卒業から高校卒業までの4回受験ができる(高校在学中の満18歳まで)。なので、合格同期生の間で数年の年齢差があることもある。試験は、1次(面接)、2次(面接、歌唱、舞踊)、3次(面接、健康診断)を通過しなければならない。願書は学校のほか、指定書店でも入手可能だ。もちろん出願は女子に限る。

宝塚音楽学校は2年制なので、そのまま卒業しても中卒のままだが、昨今は大阪府茨木市の通信制・単位制高校(向陽台高校)との提携により、高校卒業資格を取得する道もある。

なお、受験時に中学校または高校に在籍していないと受験資格は無いものとされる。

↓大正期の袴の制服と初代の洋装制服。

画像:Girls Channel 183

 

↓歴代制服。2014年8月、兵庫県立美術館「宝塚歌劇100年展」にて。

宝塚音楽学校では2013年7月15日をもって100周年としているので、1913年の宝塚聖歌隊創立からカウントしているのが分かる。

宝塚歌劇団では、音楽学校入学の時期に合わせて「98期」などと呼んでいるが、宝塚聖歌隊が創立された1913年に入学した生徒を1期生という。

2012年4月入学生は100期生で、2014年3月に歌劇団入団となる。

制服概要

<制服一式>

初めて「洋装」の制服が定められたのは、昭和31(1956)年だ。この年をもって現行のグレーの制服の採用を昭和31年としているサイトもあるが、現行制服の前に別の洋装制服があるので、それは正確ではないだろう。

現在のグレーの制服デザインは、サイト上では森英恵との記述が多いが、そうではなく、宝塚歌劇団衣装部の静間潮太郎氏だそうだ。「すみれDAIRY」というブログにも記載がある通り、宝塚歌劇の殿堂の中の静間氏のコーナーに彼の制服デザイン画も残されているようだし、何より彼自身が「私がデザインした」とおっしゃっていたらしい。

この制服の採用時期は不明だが、遅くとも50期=昭和37(1962)年入学生は現在の制服と同じものを着ている(鳳蘭の着用写真がある)。また、48期(昭和35年入学)の梓みちよも、現行制服と同じものと思われる制服を着た写真がある。

 

現行の冬服はグレーの上着(着丈の短いボレロ)とフレアのジャンパースカート、中に長袖の白いブラウスを着て、赤い蝶ネクタイを付け、制帽を被る。寒い日はロングコートも用意されている。コートは前のボタンをすべて留め、ウエストを共布のベルトでしっかりと締めて着用する。白または黒、濃紺およびそれらの同系色か、派手にならないていどの柄入りのマフラーを巻くことができる。

夏服は上着を脱いだ状態となり、ジャンパースカートは冬用と兼用で、ブラウスは半袖となる(夏服ブラウスは一度マイナーチェンジしていて、襟と袖の形状で区別できる)。

 

通学用の制靴は2種類で、1年目の予科生は黒のローファー、2年目の本科生は黒のヒール靴を履く。靴下も指定品があり、予科生は白の三つ折りのソックス、本科生はストッキングを履く。

 

校内の授業では、稽古用のウエアとして、指定のレオタード、浴衣、留袖の和服、バレエシューズなどを身に着ける。校章ロゴ入りのジャージもあるそうだ。

 

宝塚歌劇団の親会社である阪急電鉄系列の阪急百貨店にて、注文・購入する。(2009年度より、合併に伴い、阪急阪神百貨店。)

 

・上着(短い着丈、襟なし、5つシングルボタン、総裏地付き、グレー)

=上着のボタンの色がグレーのものとグリーンぽいものとが存在している。

 

・ジャンパースカート(フレア、ウエストベルト、原則として裏地なし、通年兼用、グレー)

=ジャンスカについて一部に裏地付きのものも存在していた(2008年以前Hankyu時代後期)。

 

・ブラウス(長袖・半袖、小さな丸襟、白色)

=過去の一時期に幅広の襟のものが存在していた(詳細後述)。

 

・蝶ネクタイ(ボウタイ)(赤色、幅の狭い小さなもの)

・制帽(つば付き、裏地なし、グレー)

・通学靴

・靴下(本科生はストッキング)

・コート(前合わせ6個ボタンダブル、ウエストベルト、グレー)

・バッグ

・レオタード

・校章(大:冬服校章、小:夏服校章)

 

以上のほか、和服(黒紋付と緑色の袴)も必要となる。黒紋付は喪服が流用されることが多い。このセットは音楽学校卒業後、歌劇団に入ってからも着用される。

 

合格発表の後、すぐに入学についての説明があり、制服の採寸をしたり、お稽古用の浴衣やレオタードの注文をすることになる。

 

音楽学校への入学は生徒たちの誇りと自慢であるため、卒業しても制服のほとんどは大切に保管されており、中古市場に出ることはほぼ皆無である。

(稀に出品された中古制服の取引価格は約25万円。ただし、ジャンスカにベルトがあることと、正規ブラウスが添付されていることが重要である。それらがないと価値?は半減する。)

 

生徒の在学期間は2年で、授業中は稽古着に着替えることも多く、実質的な着用時間は短いと思われる。手入れも十分にされるだろうから、学校制服の中では、出番が少ないことをどう捉えるかは別にして、比較的幸せな部類に入るだろう。中古市場に出ることもないということはつまり、男性の性欲の犠牲になることもないだろうし、もし中古品が出たとしても、別の女性が憧れでコレクションとして入手する可能性も大きくなる。

唯一、過酷な環境といえば、1年目の予科生時代の厳しい躾と掃除の時間だろうか。

それと、宝塚音楽学校ならではの話として、制服(特にブラウス)にファンデーションなどの化粧品汚れが付くことが多い。

さらに、下級生のときの掃除に際して、チリひとつ残さないようにガムテープを使うが、ガムテープを環にしたものをジャンスカにべたべた貼り付けて臨むというのは有名な話である。

↓冬服のセット。

ジャンパースカートのフレアのドレープが美しい。やや長めの丈で、どのようなしぐさをしても、きれいなラインが出るようにデザインされていると思う。

写真は、受験対策レッスンをするスタジオに展示されたものだが、興味本位でさらされる衣装とは異なり、みな羨望のまなざしを送り、敬意を払って接するので、この制服も誇りを維持できるはずだ。

夏服のセットは半袖ブラウスにジャンパースカートだが、この写真のブラウスは幅広襟で、現行のものとは異なる点に注意。84期生(1996年入学、1998年入団)の制服とのことだが、同期に「はいだしょうこ」がいる。

 

<襟の形状の違い>

現在の制服では、夏服半袖ブラウスと冬服長袖ブラウスの襟の形状に差はなく、どちらも小さな丸襟だが、以前は、夏服ブラウスに広い特徴的な襟の形状を採用していた。冬服着用時には当時も赤い蝶ネクタイを付けていたが、夏服にはネクタイは付けていなかった。夏服も広襟タイプから小襟タイプに変更されたのは1999年からだそうだ。

 

広襟タイプの夏服では、校章バッジをブラウスの襟に付けていた。現在はジャンパースカートの左胸の位置に付ける。

↓旧型夏服半袖ブラウス。この時代のブラウスの襟はジャンスカにかかるほど広いものだった。また、袖も当時はパフスリーブになっていた。

フレアのジャンスカは現在も共通である。キュッと締まったウエストにきりりとしたベルトが映える。

↓当時は左の襟先に校章を付けていた。

現在のブラウスは襟が小さいので、校章はジャンスカの左胸に付ける。

昭和41(1966)年ごろの写真には広い襟のブラウスを着用した生徒が写っている。制服採用時点から夏服はこのタイプだったのだろうか。宝塚コドモアテネのブラウスと似ているが、コドモアテネは後ろが割れているのに対し、音楽学校のものは割れていない。

現在のブラウスは夏冬とも小さめの丸襟だ。

↓夏服ブラウスの襟が広かった時代の写真。

画像:『宝塚音楽学校』読売新聞社

↓現在の夏服ブラウスは冬服と同じ襟の形状だ。

↓現行モデル冬服一式。

画像:allabout.co.jp

↓95期生(2007年入学)とされる写真では、現行モデルと同じ夏服ブラウスを着用している。

画像:Girls Channel 254

<宝塚コドモアテネの制服>

宝塚コドモアテネは宝塚音楽学校に附属する日曜教室で、音楽学校への入学を希望する少女たちに、音楽学校の講師陣により、声楽・バレエ・日本舞踊などをレッスンしている。

 

制服があり、音楽学校の制服に似たデザインで、色は茶色だ。

宝塚コドモアテネ

 

コドモアテネに通ったからといって、音楽学校への入学が容易になるわけでもなく、逆に必須条件でもない。あくまで一般の教室と同じだ。

画像:useihuku


<校章>

入学式のときに校章を上級生に付けてもらう儀式は、TVでも報じられるので有名なシーンだ。新入学生は感極まって涙を真新しい制服の胸にこぼす。

校章はハープを象り、TMSはTakarazuka Music Schoolの略。

幅16.3mm。

画像:Paypayフリマ

↓校章には大小2種類あり、大きいほうは冬服校章、小さいほうは夏服校章のようだ。


↓写真左が黒紋付と緑色の袴。


<ロングコート>

着用するときは上のボタンまできっちり留め、ウエストの共布ベルトもしっかり締める。


↓珍しくネットに出品されていたロングコート。タグが古く、1970~1980年代のもの。7号サイズ。表地はグレーだが、裏地は黒っぽい生地が使われている。




宝塚音楽学校/コドモアテネ指定NAWAレオタード

画像:メルカリChiro



<制服の苛酷な環境>

入学式に過酷な洗礼を受ける。

式の最中、起立着席を何度か繰り返すが、すばやく、かつ礼儀正しく動くことを求められるため、フレア形状のスカートの裾を触ることは許されず、ドシャっと腰を掛ける。スカートの裾はお尻に適当に潰されることになる。

また、上級生が校章を付けるとき、多くの新入生は感極まって涙をぽろぽろ流して、制服の上着などに落ちて染み込んでいく。すぐにはクリーニングされないからそのまま着続けられる。

 

校内の掃除は下級生の仕事で、エプロンなど付けず、制服姿のまま行う。床を拭くときもスカートがべったりと床に付いてしまう。有名な話は、10cmにカットしたガムテープを制服の腰回りに付けて、それを使って床などの埃を徹底的に取る掃除方法だ。頻繁に張ったり剥がしたりされる制服は堪ったものではないだろう。

 

制服の脱ぎ着も頻繁に行われる。授業の合間に素早く着替えなくてはならないから、乱暴になる。ロッカーに投げ込むようにして収納される。

また、制服一式には記名することが要求される。ブラウスに至るまで手書きで記名されている。

2年制の学校なので、着用も2年間である。

画像:mitubachi88


音楽学校制服が登場するドラマ

<NHK『てるてる家族』>

2003年度下期のNHK朝の連続テレビ小説で放送されたドラマ。石原さとみが出演し、宝塚音楽学校へ進学する。

宝塚歌劇団90周年記念として、歌劇団の全面協力を得ているので、一部、実際の校舎の中で撮影が行われ、制服もすべて阪急百貨店製作の本物が使われている。阪急百貨店はそもそも学校制服や企業制服も扱う店舗なので、制服を提供するのはお手の物であろう。



その他の類似校

OSK日本歌劇団研修所

OSK日本歌劇団は、大阪に拠点を置く少女歌劇団。松竹楽劇部を前身とする。現在の研修所は2003年に開設された。本科・研究科の2年制で定員20名。

制服は、グレーの上下で、一つボタンのボレロにフレアのジャンパースカート、リボンタイを付ける。公式サイトによると、制服代は約79,000円、紋付袴費は約75,000円。

ちなみに、NHK朝の連ドラの2023年度後期放送『ブギウギ』に登場する梅丸少女歌劇団(USK)のモデルは、OSKの前身「大阪松竹少女歌劇団」だそうだ。

画像:Sakura Macaron



ハウステンボス歌劇学院

長崎県佐世保市のハウステンボスに属する歌劇団で、宝塚と同じく少女歌劇の形態をとる。その劇団員になるための養成校で、1年目は学生、2年目は舞台実習生と称し、実質2年制。1期生14名入学は2014年。

制服はロイヤル チエのプロデュース、制作である。青い上下で、ケープ付きの上着とベスト&スカート、赤い大きなリボンを付ける。2020年5月入学募集要項によると、制服一式は107,100円、稽古着一式は212,100円(税別)。

画像:CHIE IMAI