経歴6


成人2(職場編)

就職と新人研修

私が卒業後に就職した会社は、全国規模で事業を展開しているそこそこ大きな企業だった。以下、職場に関してはあまり具体的に書けないこともあり、ところどころ不明瞭な個所があるかもしれないがご容赦いただきたい。

 

さて、大人になってからも私の女性衣類ウォッチは留まるところを知らず、就活のときは、女子学生のリクルートスーツや、訪問先の企業制服に興味津々で、間近で見つめては哀れんでいた。とはいえ、女子社員制服の良し悪しで就職先を選んだわけではない。

 

入社して最初に研修に入った本社の女子事務社員たちは、割と地味なスーツ型の制服を着ていた。企業イメージからはほど遠い、学校制服の延長のようなデザインで社員たちの評判はいまいちだったが、制服らしい制服だったので、私は嫌いではなかった。しかし、研修中は忙しくて、あまり観察できなかった。

 

本社研修を終えると、某地方の支社へ異動となり、また研修が始まる。

そこの女子事務社員の制服は、接客を伴うこともあって、本社のような地味さは排斥されていて、ブルーグレー色のジャンパースカートに柄入りのブラウスを着ていた。上着もあったが、女子社員は室内ではほとんどジャンスカ姿で過ごしていて、高校時代にジャンスカの魅力を知った私はワクワクしたものだ。

 

支社のジャンスカ制服はAラインで、前の裾に大きなインバーテッドプリーツがあった。立っているときはスリムだが、歩いたりしゃがんだりすると脚の動きに合わせて大きく広がる。高校の制服と違ってシルエットが大人だなぁと感心していた。

いつものように観察すると、新人の制服はぴかぴかで、生地にもハリと膨らみがあるように見えるが、先輩の制服の中には黒ずみやテカリがあるものもあり、くたびれが出ている。会社の制服も使い込まれるとクタクタになってくるんだなと新しい発見をしたような気がした。着用されている場はほとんど室内だったが、こき使われていることには変わりなく、可哀想な度合いは学校制服と変わりないのだと実感した。

高校の制服との大きな違いは、ジャンスカには肩から裾まで裏地が付いていることと、着脱は背中のジッパーで行うことだった。裏地を見る機会はほとんどなかったが、椅子に座ったときなどに裾がずり上がって、裏地がちょろっと覗いていたりするとドキドキしたものだ。

 

私はいわゆる本社採用で入ったのだが、地方の支社にはローカル枠採用の女子社員たちがいた。入社年月が同じだと同期ということになり、オンオフ両方で交流を持つようになった。彼女らは先輩社員と同じ制服を着ていたが、昼間会社で見ている制服姿と夜に飲みに行くときの私服姿に微妙なギャップを感じ、大人の女を意識するようになった。企業制服に加えて、一般女性の私服にも本格的に注目するようになったのは、この頃からかもしれない。


初任地の新旧交代

幸か不幸か、私は研修先の支社にそのまま正式配属となった。とはいえ、勤務先は別の拠点だ。そこの女子事務社員は支社と同じジャンスカの制服を着ていたが、私が配属された部署では業務形態の関係から、事務方以外の女子スタッフは別の制服を着ていた。外へ出ることも多く取引先とも会わなければならないので、スーツ型の上下にブラウスという制服が支給されていたのだが、私が配属されたときは、色味が濃いグリーンというちょっと特殊な印象だった。彼女らと話していると、やはり制服に関する不満も多く、特に「色が変」という声が聞かれる。たしかにミリタリーユニフォームっぽくもあり、好き嫌いが分かれるようだ。

それならいっそ制服を廃止してもらったらどうかと問うと、それは困ると言う。自前でスーツを用意するのは嫌だということらしい。女性たちに文句を言われながら着続けられている制服は、本当に情けない思いをしていただろう。扱いも当然のように乱暴になる。上着が空き机に放り出されて、荷物の隙間に挟まっていたりという光景はよく目にした。

ところが、当時の私はその制服のことをあまり可哀想に感じていなかったようだ。慣れない仕事に必死だったのかもしれないが、ほとんど構ってやることができないでいた。そのせいか、制服の細部についてもよく思い出せない。

 

女子スタッフたちが文句を言い続けたせいか、私が入ってから半年後ぐらいに制服がモデルチェンジした。前の制服が何年使われていたのかは失念したが、新制服は念願だったらしい。スタッフ全員で選んだという制服は斬新なデザインだった。

上着、スカート、ベスト、ブラウスというセットだが、同じデザインで色が2種類用意されていた。ひとつはグレー系、もうひとつはブラック系。よく見ると光沢のあるストライプが入っている。

上着は颯爽と活躍する女性のイメージを象徴し、スカートは少し広がったAラインで女性らしさを強調している。ブラウスにはリボンタイが付いていて可愛らしい。そして、何より私をくすぐったのは、上着の裏地が表地とは対照的なコントラストカラーで、しかも普通の裏地ではあまり見かけない、つるッつるッのサテン生地だったのである。ちらっと見えるドレスのような生地にドキッとしない者はいないだろう。

おしゃれな制服に女子スタッフたちは大喜びだった。少し年配のスタッフも「着る人を選ぶ」と言って困惑しつつも、その制服に身を包んで嬉々として働いていた。なのに、制服はぞんざいに扱われている。上着は雑に脱ぎ着され、スカートはシワになるのも構わずに腰を下ろされている。着る人を選ぶと言うが、実際は衣類は着る人を選ぶことなんてできない。誰に着られるかは運任せで、その人の性格や習慣によって痛めつけられ方もさまざまだ。

 

新しい制服が配られたとき、スタッフたちは旧制服姿で受け取っていた。袋から出して、ああでもないこうでもないと新制服を吟味していたが、それを間近で見ていた旧制服はどんな気持ちだっただろうか。いつもの私なら、お役御免となる古い制服のことを案じ、新しい制服のこれからの生活を心配するのだが、そのときも旧制服のことはほとんど気にしていなかった。

 

新制服の着用開始の日、オフィスのデスクの横に透明の大きなビニール袋が置かれていた。中には書類ゴミなどと一緒に、古い制服が透けて見える。上着もブラウスもスカートも適当に丸められていて、裏地が未練を残すようにかすかに光り、ブラウスのボタンも負けじと輝いている。それを見たとき、私の心が少しだけチクッとなり、股間がヒクッとなった。

「制服、捨てちゃうんですか?」と私は横にいた女子スタッフに聞いてみた。

「うん。どうして?」

「なんか可哀想」と、ちょっとうろたえた私は、つい口にした。

「でしょ!」という答えが返ってきてハッとしたが、すぐに誤解だと分かった。

「こんなもの着せられてて、私たち可哀想だったでしょ」

やはり、衣類を可哀想だなんて思う人はいないんだ、と確信した。そして、女性に「こんなもの」呼ばわりされた制服がほんとうに可哀想に思えてきた。上着の肘やスカートの尻はテカリがあっても、まだまだ使える制服だ。ひどい扱いに耐えながらも、これまで共に働いてきた制服なのだ。それなのに「こんなもの」とは・・・。

今まで哀れんでやれずに申し訳なかった。もちろん手出しはできなかったけれど、気にかけて痛みを共有することぐらいはできたはずだ。しかし、もう遅い。

 

会話の途中で、他の女子スタッフが、「これ、まだ入るぅ~?」と古い制服を抱えてやってきた。更衣室からオフィスへ出勤してくるスタッフたちも制服を抱えている。机に投げ出され、鷲掴みにされ、丸められて、ゴミ袋に制服が次々と追加されていく。埃が付いていても誰も気にしない。ドサッ、クシャッ、しゅるしゅるッという布の音がする。

何のためらいもなく、パンパンになった袋を上からぎゅうぎゅう抑え込んでいる女子スタッフは、新しい制服を着ている。新旧交代の残酷なシーンだった。企業制服の哀れな様子を目の当たりにした私は堪らなくなり、股間のほうもパンパンになったのを機にトイレに駆け込んだ。


地方研修のとき

ある地方支社で一か月ほどの研修を受けたことがある。その期間中は会社の寮にお世話になっていた。

ある日、日中の研修から戻ると、玄関ロビーに見覚えのある学校の制服が見えた。ロビーの舎監(管理人)事務室の隣に、クリーニング店から戻ってきた衣類を置いておくスペースがあって、そこにビニール袋が掛けられたジャンパースカートが吊るされていたのだ。男子寮だったので、寮生のものではない。舎監の娘さんのものだなとすぐに分かった。この制服を着た姿を見たことがあった。制服自体は珍しいデザインではなかったが、その女子高にはちょっと興味があったので、私はドキッとした。しかし、公の場で触れるわけにもいかず、私はほとんど素通りするしかなかった。

 

夕食を取り、入浴を済ませ、部屋に落ち着いても、あのジャンスカのことが頭から離れない。布団に入っても、気になって眠れない。とうとう深夜になって、私は食堂の自動販売機へ行くふりをして、ロビーまで行ってみた。

ジャンスカはまだ吊るされていた。

人の気配がないことを確認し、ジャンスカを覆っているビニールの裾を捲りあげてみた。最初は少しだけ捲って、スカートに触れてみる。夏服の生地質だ。このほかに制服アイテムは無かったので、ジャンスカだけをクリーニングに出したのだろうか。季節は6月で、この時期、冬服を出すなら分かるが、なぜ夏服を?

そんなことを考えながら、さらに大胆にビニールを捲って、ハンガーの上まで引き上げる。女子高のジャンスカがすっかり姿を現した。スカートを引っ張って、わずかな蛍光灯の光を当てると、ひどくはないがそれなりにテカリがある。かわいそうに学校生活でこき使われているのだろう。

上半身に付いている裏地は、夏服仕様のメッシュのようなタイプだった。暑い盛りでもこのジャンスカは着用される。汗染みにも耐えなければならない。となるとクリーニングも頻繁にされるのか。ということは2‐3着用意されているのかな。

スカートを捲りあげてみると、ポケットにタグがあって、フルネームが手書きされていた。私は悪いと思いながら、頭を突っ込んでみた。クリーニング上がりの薬品の匂いがした。私は心の中でタグの名前を呼んで、「大切に着てあげてね」と念じた。

 

でも、よく考えてみると、女子生徒に現役で使われている制服が、いま何の関係もない男性に触られまくっている。哀れんでいるだけなのだが、制服はさぞや恐怖と嫌悪感を抱いていたことだろう。可哀想なことをしたな、ごめんね。私の股間がヒクヒクと反応し始めている。そのまま一緒にいると、とんでもないことが起こりそうで、私は後ろ髪を引かれる想いでその場を離れた。

当時はカメラで監視するという発想がなく、このような不穏な動きが見咎められることはなかったが、古き時代の戯れとしてお許しいただきたい。昨今はどんな場所にも防犯カメラが付いているので、皆さまは決して真似をしないように。 


託された新制服

初任地で仕事にも少し慣れてきたころの話だ。別記事に書いたように、女子スタッフの制服が「変な色」のものからおしゃれなものへモデルチェンジして間もないころ、私は、女子スタッフのひとりとペアになって外へ仕事に出た。彼女は私より数か月早く職場に居たので仕事上は先輩だったが、年齢は私より1-2歳若い。ちょっと天然なところもあって、物も知らない。頼れるようで頼りにならないスタッフだった。

その日の仕事は出先で小規模なイベントがあって、彼女に司会を任せることになっていた。人前に出て注目されると俄然盛り上がる、若い子にありがちなパワーを発揮し、おまけにお嬢様っぽい風貌も幸いして、イベントは成功裏に終わった。

会場の片付けは現場のスタッフがやるというので、もう解散しようと思って、私は一緒に来た女子スタッフを探したが見当たらない。もともとイベントが終わったら直帰(=会社へ戻らずに帰宅すること)になっていたので、先に帰ったのかもしれない。そう思って、手荷物を入れようと、仕事のために持ってきていた大きなスーツケースを開けたときのこと、中に女子スタッフの制服が入っている。スーツケースは会社の備品なので、誰かが間違えたのかなと思ったが、この制服を着ているのはうちの部署しかいない。上着に付いている名札を見ると案の定、彼女のだ。

現場のスタッフに聞くと、どうやら先に帰ったらしい。

 

彼女はイベント司会をする際に、ちょっとフォーマルなワンピースに着替えていた。そのあと、制服に着替えないで、そのまま帰ったのだろうか。訝っているときに、彼女から電話が入った。「別の場所へ寄ってそのまま帰ります」と彼女。

「それはいいけど、制服残っているよ」

「あ、どうしよぅ」

ほんとに忘れていたのか。軽く見られた制服を哀れむ。

「ゴメンだけど、明日持ってきて!あ、明日は休みか。休み明けでいいよ」

面倒くさい頼みだが、制服を一時的にでも持って帰られることで頭がいっぱいになって、私は勿体ぶりながらOKした。彼女は制服を残して、きれいなワンピースで飲みにでも行ったのだろう。そういえば、来るときも上にコートを羽織っていた。もしかして当初からそういう計画だったのか。

 

当時の私は社員の単身寮に住んでいた。ひとり一部屋でドアに鍵もかけられる。そして、明日から2連休だ。

部屋に戻るとすぐにスーツケースを開けてみる。真新しい新制服は、スーツケースに適当に丸めて入れられていた。「可哀想に、シワになるじゃないか」と言いながら、上着、ブラウス、スカートをひとつずつ取り出していく。2種類あるうちの黒系のシリーズだ。いつも見ている制服は女性に着られている姿だが、上着はまだしも、畳に投げ出された様子のブラウスやスカートはちょっとエロい。制服にしてみれば、男性社員の部屋に連れ込まれて不安な思いをしているだろう。

一式をハンガーに掛けてみる。取っ手のところにスカートの吊り紐を通し、ブラウスを掛けて、上着を重ねる。ロッカーの中ではこんな風に吊るされているのだろうか。ハンガーごと揺らしてみると、されるがままに制服も揺れる。サテンのツヤツヤ裏地が時々顔をのぞかせてキラキラ輝く。スカートを裏返してみると裏地は上着とは違っていて、表地と同系色の普通の生地であることに気付く。上着の派手な裏地は、明らかに人前で脱ぐことを意識しているのだ。一方でスカートの裏地は、尻に敷かれて過酷な試練に耐えているのに、誰にも気にされることもない。このスカートもさざ波のような座りジワが無数に付いているが、外からは分からない。

 

それにしても、こんなに素敵な制服なのに、乱暴に使い込んで、雑にスーツケースに投げ込むとはひどい話だ。外見はまだ真新しいのだが、裏地など細部を観察すると、あちこち着用感が見て取れる。スタッフみんなで選んだというのに、なぜもっと大切に扱わないのか。会社からの無償支給品だからなのか?

今回も、彼女が私に託したために、制服は3泊4日のあいだ不安と恐怖に耐えなければならない。哀れなヤツだ。そう思いながら、しばらく眺めるうちに、不覚にも股間が反応してくる。畳の上に制服を人型に並べてみる。わざと踏んでみても、じっと堪えている。あんな天然の子に雑に扱われている日々を制服はつらいと思っていただろう。しかし、いま異様な雰囲気のなかで感じる恐怖と不安、そしてこれから起こる屈辱と比べると、どちらが良いと思うだろうか。


本社事務社員の制服

私が入社したとき、本社の女子事務社員は地味な制服を着ていた。最近のようなおしゃれなOL制服ではなく、学校のスーツ制服をほんの少しだけフェミニンにしたような、青い上着とスカートで、白いブラウスだった。夏季はブラウスが半袖になるだけで、冷房対策で上着を羽織る人もちらほらいた。いずれにしても、高校制服の延長にあるようなデザインで、女子社員の間でも評判はあまり良くなかったようだ。

だが、私は嫌いではなかった。制服らしい制服で、上着の襟は丸みを帯びていて若い子が着ると、とても可愛らしい。後ろの裾にはセンターベント(スリット)があって、時々左右に割れたり、ちらっと捲れたりする様子が好きだった。

スカートもタイトに近いAラインで、やはり後ろにベントがあった。こちらは歩くたびにちょこちょこ揺れる様子に注目していたものだ。

上着の裏地は総裏で付いていて、雑に脱ぎ置かれた上着を見ると、蛍光灯の光を受けてツヤツヤ魅力的に輝いていた。タグを確認できなかったが、レーヨンかキュプラのような質感だった。

椅子に腰かけた女子のスカートの裾から、裏地がはみ出していることもあり、上着と同じ裏地が使われていることも確認できた。

 

入社してからは短期間の本社研修ののち、別の任地へ異動しているので、本社の制服と一緒に仕事をするのは数年後の話になる。初任地のおしゃれな女子制服になじんでいた私には、「いかにも制服」といわんばかりのデザインは懐かしく思えた。

使い込まれたものが多く、テカリもはっきり見えた。中には何年もこき使われていたものもあったようで、もともと光沢生地なのかと思わせるほどテカリがひどい制服もあった。学校制服と違って3年と年限があるわけでもなく、着られるまで着られる。職業制服は学校制服より過酷だと知る。

女子に人気のない制服は、扱いも当然のようにぞんざいになる。椅子の背もたれに上着が投げたように置かれていて落ちそうになっていたり、テーブルの上に放り出されていて裏地がむき出しなんて日常の光景だった。当時の女子制服は会社からの無償支給だったので、扱われ方も適当だったのだろう。制服には何の罪もないのに、気に入らないというだけでそんな目に遭わされるのか。女性たちは無理やり着せられているという意識があるのかもしれないが、自分の衣類に違いない。なのに、なぜ大切に扱おうとしないのか。そんなことばかり考えて、可哀想な制服たちを眺めていた。


本社制服のモデルチェンジ

入社後、数年の地方勤務の後、本社に戻り、さらに何年も経ったころ、本社の女子制服が全面的にモデルチェンジされることになる。

内容を具体的に書けなくて申し訳ないが、上着、ベスト、スカートに加えてスラックスやキュロットなども選べるようになり、上着やベストのデザインもちょっと斬新だ。学校制服にはない明るい色使いで、さらに冬服と夏服では異なった色あいを採用しており、季節でイメージがコロッと変わる。表地はウールとポリエステルの混紡、裏地はしっとりツルツルのレーヨンだった。

ブラウスもタック入りでおしゃれを追求し、何より、肩のあたりの膨らみが女性らしさMAXだった。特に夏服の半袖ブラウスは、パフスリーブのようになっていて、かなり可愛らしかった。素材は綿とポリエステル半々の混紡で、見た目にほんのり光沢があって、しなやかさもある。これにリボンタイを着けるチョイスも用意された。

さらに、寒さ対策で、制服の上に羽織れるジャンパーもあり、表地も光沢生地という、挑発的なものだった。私は会社に通う楽しみを引き続き得ることができたのだった。

 

女子社員たちも待ちに待ったらしく、かなり喜んではいたが、制服の扱いは変わっていなかった。上着が椅子の背もたれに掛けてあるならまだしも、座面に束になって潰されていたり、思い切り裏地をさらしてぶら下がっていたり、袖が裏返ったままデスクに丸められていたり。つるつるジャンパーなんてもっとひどくて、ぐしゃっと箱に押し込まれていたりしているものもあった。

お昼休みになると、雑に置かれていた上着をさっとつかんで、ぶらぶらさせながら食堂へ向かう。食堂では、場所取りを兼ねて椅子に投げるように置く。配膳カウンターから食事を取ってきたら、上着を気にせずにそのまま座る。

毎日、可哀想な制服のオンパレードだ。思えば、旧制服でもほとんど同じような光景が繰り広げられていた。結局、女子社員たちにとっては、制服は制服なのだ。企業制服は、会社から無償でもらっているので、扱いはいっそう雑なものになるのかもしれない。これは学校制服よりも、はるかに過酷な環境なのだということを改めて実感する。


本社社員の旧制服

本社の女子事務社員の制服がフルモデルチェンジしたとき、私が気になったことは、新制服がどんなものかということはもちろん、今まで使われていた旧制服はどうなるのかということだった。

会社が発表した旧制服の扱いはといえば、「社員各自で適切に処分すること」だった。確かに特別な意味のある制服でもないので、外部に漏れたとしても悪用の心配はほとんどない。だから、「どうしようと自由にしてください」というわけだ。私は、制服たちが女子社員の手によって無残に廃棄されてしまうことを想像し震えた。今まで懸命に女子社員たちのため、会社のために貢献してきたのに、あんまりだ。

会社の通達には続きがあった。

「希望者には、会社で回収して難民支援に寄贈するという道もある」というのだ。その当時、社員の制服をリサイクルやリユースするという運動はすでに一般化していて、航空会社や銀行など多くの企業が活用していた。私の会社もそれに乗った格好だ。

 

かくして、制服の回収運動が始まった。

社内の一角に回収コーナーが設けられ、制服が集められる。私も人待ちのふりをして、ときどき覗きに行った。エコブームも反映して、かなりの数の制服が集まっていたようだ。

上着は上着、スカートはスカート、ブラウスはブラウスのように、別々に回収されていく。並んでいる女子社員たちを見ると、丁寧に畳んで抱えている人、適当に束ねている人など様々だ。紙袋に入れてきた人も、一式を引きずり出して、バラバラにして回収用の大きなケースに入れていく。入れ方もまちまちで、そっと置く人、投げ込む人など個性が出る。

こういう光景を見ると、今まで一人の女性に使われていたものが、バラバラに引き離されるのは可哀想だなと思ってしまう。しかし、次に着る人が上下同じサイズだとは限らず、セットにしていてもあまり意味はない。

 

ケースに入れられた上着やスカートが裏地を見せていると、哀れさがいっそう募る。裏地の部分は衣類が他人に最も見られたくない部分だと、私は感じている。裏地は光沢のある織り方で薄い生地なので、耐久性もよくない。ということは、衣類の弱い部分と言える。動物が腹を見せないように、制服にとっても最も守りたいところを見せたくはないだろう。また、日常他人に見せる部分でもないので、恥ずかしさもあろう。裏地が思い切り人目に晒されているのは、制服にとって可哀想な状態なのだと思ってしまう。

係りの人は、回収用ケースが溢れそうになると、山になった部分を崩して適当にならしている。きちんと畳む必要もないようだ。

ケースの縁に、ブラウスなどの袖が掛かってはみ出している光景も胸が痛む。ケースの中から腕を伸ばし、手を掛けて助けを求めているように見える。それなのに、上からさらにぎゅうぎゅう押し込まれて苦しそうだ。ケースを移動させると、外に出た袖がゆらゆら揺れるのを見ると、助けてやれなくてごめんと叫びそうになるのだ。

 

集められた制服たちにしてみれば意味不明だろう。女子社員たちに乱暴に扱われていたとはいえ、つい先日までエアコンが効いたオフィスで着用され、ハンガーに掛けられて個人ロッカーに収納されていたものだ。それが今は雑にてんこ盛りにされ、まるで衣類として扱われていない。のんきな制服は、「一斉クリーニングに出してもらえるのかな」などと思っているものもいたかもしれない。まさか見知らぬ国へ送り出されようとは夢にも思うまい。

そう、次に働かされるところは、気候も習慣も言葉も違う異国なのだ。おそらくそこでは、少々汚されたり破られたりしても、そのまま着続けられる。冷房の効いたオフィスで静かに過ごしていた場所とは程遠い、過酷な環境だろう。そのとき制服たちは気付くかもしれない、女子社員たちにずいぶんと乱暴な扱いを受けていたと感じていたけど、あれは取るに足らないことだったのねと。

 

後日、女子社員たちと制服の話をしたときのことだが、何人かの人は寄贈しなかったと言った。その理由は、期限中に持っていくのを忘れたとか、会社へ持ってくるのが面倒だったとか単純なものだった。で、どうしたのかというと、「捨てた」と口々に笑いながら言う。「あんなの家で着るわけないし」といかにもダサいと言いたげだった。女性に軽く扱われている衣類こそ、救いようのない「可哀想」を感じる。


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