進学した中学校の女子制服はセーラー服だった。脇ジッパーで、スカーフを付けるオーソドックスなタイプである。スカートは24本のありふれたプリーツだが、小学校の制服スカートよりプリーツの数が多かったので、入学してすぐに数を数えて確認した。
そして、プリーツの向きにも法則があることも知った。
入学早々、もうひとつ確認しようとしたことが裏地だった。冬セーラー服上衣の裏地が気になっていたが、セーラー服は人前で脱ぐことは無いし、中学校ともなると更衣室も完備しているので、体育の時間でも教室に脱ぎ置かれていることは無い。
唯一裏地が垣間見られたのは、袖先のカフスを閉めたところの僅かな隙間だった。そうして、表地が濃紺であるのに対して、ほとんどの生徒の裏地は黒色であることが分かった。また同じ黒色でも、ありふれたポリエステル生地のものと、サテンのように光沢の強いものがあることも知ったし、僅かながら赤色(正確には臙脂色)のものも確認した。
セーラー服は身体に密着したシルエットなので、揺れは比較的少なく、裏地を見ることも稀だったので、小学校の制服ほどは興味を掻き立てられることはなかった。
その一方で私の関心を引いたのは、セーラー服のスカーフである。裏地のようなツルツルした生地が情け容赦なく使われている。スカーフ留めが無いセーラー服だったので、前で括られている様子はとても可哀想に見えた。
見るともなく眺めていると、女子たちはよくスカーフの端を指で触ったりしている。無意識にやっている子も多くいた。暇なときは結んだりほどいたりを繰り返す子もいた。そういうわけで、スカーフの端は解れ、黒ずんでいくのであろう。
また、数人の女子がそれぞれのスカーフの端を結んで一本の紐のようにし、校舎の上から垂らして遊んでいるのも見たことがある。スカーフという、か弱そうな生地をオモチャにするなんて酷いなと心の中で叫んでいた。
校内に落とし物を集めて展示するケースがあったのだが、その中に女子の制服スカーフが入れられていたことがある。そして、それは何日もそのままになっていた。スカーフを失くしたことに気が付かなかったわけではないだろうが、落とし物ケースを確認しない女子もあんまりだなと思いながら、寂しく持ち主を待つスカーフを哀れんでいた。
今でもはっきりと覚えている。中学校に入学したばかりのころ、朝礼で校庭に並んでいたときのことだ。
朝礼が終わり、3年生から順に並んで校舎へ入っていくのだが、そのとき歩く女子生徒たちの制服姿にいつも注目していた。
ちょうど朝の陽の光を受けて、女子生徒たちの制服はテカッてきらきら輝く。3年生ともなると制服も相当使い込まれていて、冬服はセーラー服上衣もスカートも全身テカテカだった。
テカリは酷使された証なんだな、みんな可哀想に、と私はそれら制服を観ながらいつも哀れんでいた。そんな列のなかで3年生の女子生徒の一人の制服は、とびきりテカっていることに気づく。
強い光を受けていなくてもキラキラ・テカテカなのだ。
ふつう、テカリは肘や背中、スカートのお尻部分などに顕著だが、その3年生の制服は前も後ろも見事にテカッていた。テカリは生地の摩耗だから、人間で言うと擦れてヒリヒリしているはずだ。となると、全身ヒリヒリしている制服は苦しいだろうな。
そんなことを考えながら、いつも眺めていた。
酷使されればされるほどテカリは増える。テカリが多ければ多いほど、可哀想な制服なのだ。
ある日、校舎から校庭へ出ようと狭いドアを抜けようとした私と、中へ入ろうとした3年生女子と鉢合わせしたことがある。朝礼で最も注目していたテカテカ制服の女子だった。ぶつかりそうになりながら、狭いドアをお互いが同時にすり抜けたのだが、そのとき3年生女子のスカートが大きく揺れて、すごい量のテカテカ生地が広がり、大きな音を立てて当たってきて、次の瞬間、ばさぁ~っと私の全身を包むように被さったのだった。
背の高い、すらっとした美人顔の微笑が同時に見え、とてもドキドキした。女子の身体と女性衣類が結びついた瞬間だったかもしれない。
私には姉妹がいなかったので、家庭内にある女性衣類といえば母親のものだけだった。当時、私が反応していた衣類は学校の制服と和服、そしてサテン系衣装ぐらいだったので、自宅で衣類を可哀想に感じる機会はほぼなかった。女子制服はもちろん無かったし、ツルツル生地のサテン系衣装の見覚えも無い。和服は何枚かあったが、母親に怒られることを恐れて触れることは無かった。
というか、なぜか母親の衣類を可哀想だと感じた覚えが無いのだ。家族の衣類には反応しなかったのは今も不思議である。もし、姉妹がいて、その制服が身近にあったとしたらどうだっただろうか。
友達の家に遊びに行ったとき、姉妹の制服が無造作に吊るされているのを見て、家庭の中で制服たちがどのように扱われているのかにも興味を持つようになった。学校では女子たちの身体をしっかり包んでいるセーラー服が、家ではジッパーが開放され、胸当ても外され、だらしなくハンガーに掛けれれている。スカーフも結ばれることなく、引っ掛けられているだけだ。
家によっては、椅子の背もたれにブラウスやら上着やらスカートが束ねられて、どさっと置かれていたりする。上着の袖は半分裏返っていたりして、ほとんど脱いだまま放置されているのだろう。家の人はそれでも平気だ。雑に扱われている様子に胸が痛むのだった。
親友の姉は、地元では有名な私立女子高に通っていて、彼の家に行くと、そのセーラー服がハンガーに掛けられて部屋に吊るされていた。私はとても気になったが、友人には日常の光景で、むしろそれが邪魔だと言わんばかりの様子だった。私は、いつも本物の制服を眺めていられる彼が、なんだかとても羨ましかった。
小学校高学年で、授業中に性器をまさぐる行為は、中学校に入ってからも続いていた。
中学校の男子制服は詰襟に長ズボンだったので、性器を裏地で直接こすることはできなかったが、パンツから性器を出して、左のポケットに手を入れてそれを擦るというやり方を覚えた。この方法の利点は、立っていても歩いていてもできるということだ。実際、下校中に前を歩く女子生徒のスカートを眺めながら擦っていたこともある。ただし、エロい気持ちからではなく、ここでもスカートなど制服が「可哀想に」と心の中で叫びながらの行為だ。
中学生にもなると、ドロっとした液体が精液だということも分かるようになっていたが、構わず射精していた。今にして思えば不潔な話だし、授業中に射精したときは臭いもしたであろう。
また、自宅に帰ってからも、女子生徒の制服の可哀想な様子を思い出しながら擦ることがよくあった。もちろん、「可哀想に」とつぶやきながら。もう自慰行為であることは認識していたが、女の子の顔や裸を想像してやるのではなく、常に制服のことを考えてやっていた。
自宅で自慰行為をするときは、自分が小学校のとき着ていた制服の上着を使っていたというのも、少し特殊なことかもしれない。ズボンを下ろし、性器を出して、その上に上着を被せて擦るのである。この際、指で陰茎を包むのではなく、上着の裏地を押し付けるようにして、上から摩擦する。そうすると上着全体が太腿に当たって擦れ、下半身全体を刺激してくれるのと同時に、生地がゆさゆさ揺れる姿に、制服の哀れな様子がいっそう拡大されるように感じたのである。今にして思えば、自分の制服に残酷なことをしていたと思うが、当時は女子の制服を哀れむことに集中していた。
その後、この方法は長く続くことになる。
制服と光沢ドレス、そして和服だった私の関心は、生活圏の広がりとともに少しずつ多様になっていく。
それまで私服を観察することは無かった私だが、中学校の若い音楽教師がそれを変えてくれた。
ある日、先生がオレンジ色のスーツを着てきたのだ。
セーラー服に囲まれる日々だったので、私服スーツが新鮮だったのかもしれない。上着とヒダのあるプリーツスカートで、そのスカートの揺れぐあいが実に可愛げで儚く、頼りない感じだった。なんとなく、このスカートも可哀想だなぁと思ってみていたら、ピアノの椅子にドンと座った瞬間、スカートのきれいなプリーツが潰された。悲鳴が聞こえたような気がした、
その後、同じスーツを着ているときに観察していると、そのスカートに裏地が付いていることに気づく。あの制服に付いていたようなツルツル生地の裏地が、スカートにも付いていたのだ。スカートは座るたびにお尻に敷かれるという苛酷な環境におかれている。それに裏地が付いていると、いっそう悲惨だ。これは可哀想すぎる。
私がスカートの裏地に気づいた瞬間だった。
高校受験の準備も佳境に入っていた3年生の暮れ、ひょんなことから、通っている中学校のセーラー服冬服上下を手に入れたことがあった。洋裁が得意だった母親が、ある日、古着をまとめて持ち帰ってきたのだが、その様々な私服の中に混じっていたのだ。
初めて触ったセーラー服に私は興奮した。同級生が着ているのと同じ制服なので、性的な興奮がゼロだったとは言わないが、それよりもセーラー服じたいの仕組みについての興味のほうが大きかった。
セーラー服上衣は背中や肘に酷いテカリがあり、ラインも取れかかっている部分があるなど、相当使い込まれたものらしい。スカートも、尻に敷かれる部分を中心にテカリとシワがたくさんついていて痛々しいものだった。
教室に置いてある同級生のセーラー服をさりげなく触れてみたことはあったが、じっくりと手に取ったことはない。ドキドキしながらその仕組みを確かめていく。
上衣は左脇にジッパーがあり、上へ引き上げると開く。V字型の胸元には胸当てが付いていて、スナップボタンを外せば開くようになっており、両者を外して頭から脱ぎ着するものであることが分かる。
上衣の裏側は黒いしっとりしたツルツルの光沢生地が張られている。胸当ての裾には外から見えない位置に生徒の苗字が刺繍されていた。また、前身頃の裾のほうに内ポケットがあるのも発見だった。
「女子はこんなものに包まれていたのか」と感動を新たにする。
スカートは単純な構造で、左側にジッパーとホックが付いていて、プリーツ(ヒダ)の間にポケットがあった。スカートは生地たっぷりで、想像していた以上に重たく感じた。
私はその制服を自分の手元に置いて、しばらく研究することにしたが、親も意識がなかったのか、セーラー服を私の手元に置いたことにそのときは気づかなかったようだ。親に見咎められたのは高校生になってからだったと思う。
この記念すべきセーラー服は、のちにバラバラに分解して処分した。でも、なぜか胸当てと片方の袖だけは、しばらく手元に残して、自分の股間に押し当てていた。
中学生の私は、まじめで優しくて気弱な生徒だった(笑)。
ある日、不良グループが写真集を押し付けてきて、「おまえ、これを持ってろ」という。パラっと開いてみて驚いた。エロ本だったのだ。射精も覚え、性にも目覚め始めていたころとはいえ、本格的なエロ本を見るのは初めてだった。しかも内容は緊縛モノで、主に黒い着物(喪服)を着た女性が太い縄で縛りあげられているものだ。
「さすが、不良グループはすごいものを持っているな」と妙な感心をしたものだ。
ドキドキしながら、うちに帰ってあらためて開いてみた。
奇麗でか弱そうな女性たちが、ギンギンに縛り上げられていて、どの人もみな苦しそうにしている。中には逆さ吊りされているものもあり、拷問か処刑シーンのようだった。
「この女性たちは何か悪いことでもしたのかな」
いま思えば、実に可愛い反応だと思うが、当時の私は恐怖を覚え、見てはいけないものを見たような気がしていた。
そんな中で、女性たちが着物のままで縛られているのに気づく。喪服の上から荒縄が食い込んでいたり、喪服そのものを縄でくくって引っ張り上げたりしていて、明らかに着物も過酷な虐待を受けている。
「なんて可哀想なことをするんだ!」と、私は、女性に対してではなく着物に対して叫んでいた。そして、いつものように、股間に小学校時代の制服を押し当てて擦っていた。
さて、そのエロ本だが、返せとも言われず、親に見つかったわけでもなく、ある日、ハサミで細かく切って処分したのを覚えている。なんとなく、持っていてはいけないものだと感じたのかもしれない。うぶな中学生である。
中学校の修学旅行のバスの中、ずっと気になっていた女子の隣の座席に座る機会がたびたびあった。自由席ではなく、教師が勝手に決めたもので、逆らうことはできない。
その子はクラスでも1~2を争うぐらいの秀才で、飛び切り美人というわけではなかったが、おとなしくて控えめな子で、私はちょっと大人びた落ち着いた感じが好きだった。小学校から一緒だったので、なんとなく親しみもあった。でも、そう思っていたのは私だけだったかもしれない。というのも、ほとんど初恋の人で、小学校の頃は好き過ぎて嫌がらせを続けてしまい、先生に叱られたという経歴を持つ。そんな彼女がバスの中でずっと隣に座っていた。
彼女は窓側、私は通路側。今にして思えば、なんという席順だろう。和やかに会話でもすればよかったのに、当時の私は声すら掛けられなかった。私がしたことは、うつむき加減になって横目で彼女の制服を眺めることだった。旅程のほとんどで制服の冬服上下(セーラー服とプリーツスカート)を着ていたので、バスの中では物言わず、彼女に気づかれぬよう、じっとそれを見つめていた。
ときどき窓の外を見るふりをして彼女の制服を見ると、セーラー服の小さく盛り上がった胸の山にスカーフがちょんと乗っている。スカーフの結び目は少し黒ずんでいて、先っちょはわずかに解れているように見える。
視線を下へ送ると、セーラー服の下にスカートのプリーツの線が流れるように続き、膝のところで下方へカーブを描いて、裾がバスの振動に合わせて揺れていた。スカートの横は太ももと肘掛けに挟まれて、生地が溜まっている。彼女は、腰掛けるときプリーツをきちんと揃えるようにお尻を撫でつけて丁寧に座る子だったが、近くで見ると、ところどころシワが付いているし、小さなシミやテカリも見えて、スカートも苦労が多そうだった。
「この子に着てもらえる制服は幸せそうに見えたけど、かなり使い込まれていそうだな。やはり制服は辛そうだな。たいへんなんだな。可哀想だな」と、そんなことばかり考えているうちに、私の股間がムクムクと起き上がってくる。
バスの中では終始そんな調子で、隣に男子が座ったときは、斜め前に座っている女子の制服を見つめていたので、窓の外の風景なんて、まったく記憶にない。
そのうち、私は寝たふりをして、右手を落とし、彼女のスカートに手が当たるようにしてみた。手の甲にわずかに当たる感触だけでドキドキした。それを何度か繰り返すうち、だんだん大胆になって、思い切って指先でスカートのヒダを摘まんでみた。
彼女が穿いているスカートを触っているという指先の感覚が、私をぼおーっとさせた。
「スカートさん、辛くないか? 彼女は大切に扱ってくれているか? テカリやシミが付いていて可哀想だな」などと心の中で話しかけ、いろんな思いが湧き上がってくると、瞬時に私の股間は痛いほど膨張した。
修学旅行で席が隣になるたびに同じことを繰り返したが、彼女に咎められたことはなかった。気付いていたとしても、怖くて声に出せなかったのかもしれない。よく考えてみると、ほとんど痴漢行為だ。彼女にも制服にも申し訳ないことをしたと思っている。
当時住んでいた集合住宅の構内に、粗大ゴミ置き場のような、倉庫のような中途半端な場所があった。ゴミとして回収されるものを置く場ではなく、リサイクルショップのような要らないものを置いていき、欲しいものをもらっていくという物々交換の場として機能していた。
ある日、そこに置いてあった大きな長持(ながもち)を開けると、着物や帯が畳まれて詰まっていた。私はすぐに、小学生のころよく遊びに行っていたさゆりさんを思い出した。着物姿がきれいだった看護婦さんだ。和服姿のさゆりさんに抱き着いたときのしなやかな絹の感触と樟脳や御香の香りが頭をよぎる。私はすぐに着物を引っ張り出して匂いを嗅いでみたが、樟脳の香りはするものの、同時に埃っぽさとカビ臭さを感じて、少し幻滅した。それでも、「こんな所に閉じ込められて可哀想だ」と思い始め、持てるだけの和服を抱えて家へ帰ってきた。
ミカン箱一つぐらいの量なので、母親に見つからないようになんとか自分の部屋へ持ち込んで隠し場所も確保した。夜、こっそり部屋で広げてみると、訪問着や小紋の着物、襦袢(じゅばん)、帯、羽織などいくつかのアイテムがあることが分かった。部屋には樟脳の香りと埃っぽさとカビ臭さが広がっていたが、頭の中は小学生時代に陶酔したさゆりさんの和服のことでいっぱいになり、そうこうするうちに、持ち帰ってきた和服たちを歓迎するようになっていた。鼻も匂いに慣れてしまったのだろう。寝床に広げて、和服たちに包まりながら、窮屈な長持から和服たちを救出できたことを喜んだ。
訪問着の表地は控えめな光沢を放ち、裏側はしっとりしなやかな生地が蛍光灯の光を反射する。
小紋の着物も羽織も、表地は大人しいが、裏を返せば眩しいほどにツルツルだ。襦袢は着物の下に着るものだが、天女が纏うものかと思うほどしなやかですべすべしていて、光を受けて白にもピンクにも青にも輝いていた。帯は固くてずっしり重く、凛とした雰囲気が大人の衣装であることを物語る。そんなアイテムがいくつも揃っていた。
今にして思えば、長持の中に帯締めや帯まくらなどの小物も入っていたが、当時は関心がなかったらしく、それらは置き去りにしたのだった。
「こんなか弱いモノたちを、誰が捨てたんだろう。可哀想なことをするなぁ」
私は、和服たちを自分の身体に絡ませながら、元の持ち主に見捨てられた和服たちのことを哀れんだ。訪問着をバサッと広げるようにして置くと、緻密に織られている正絹生地は空気をはらんでふくらみ、そして、ゆっくりと萎んでいく。その様子が生き物のように感じられていっそう哀れみが増す。
よく考えると、あのまま置いておけば、また次の女性に着てもらえたかもしれないのに、少年に拉致されたばっかりに、その道は閉ざされてしまったわけだ。あの頃の私は、そんなことに思い当たるはずもなく、和服を自分の手元に迎えられたことを素直に喜んでいた。
中学3年生に選択制の授業があった。そのときは自分が取った授業を受けるために教室を移動するのだが、ある日、私は自分の教室を離れるときに、イスに画鋲を張り付けた。知らずに腰を掛けると、針が尻を刺す仕組みだ。まじめな私はそんなことはやりたくなかったのだが、不良グループに唆(そそのか)され、「根性みせろや」的な脅され方でやらざるを得なかった。
選択授業は自由席なので、たまたま当たった者が運が悪いということになる。
席に戻ると、机の上にメモが貼ってあって、「ひどいイタズラはやめてください」と書いてあった。あとで聞くと、ある女子が座ったらしい。その子は少しぽっちゃり体形で、言っちゃ悪いが、男子が憧れるような感じでもなかった。
悪友の中には、「あいつならいいんじゃね?」と酷いことを言ったヤツもいたが、私は彼女に、というか、彼女の制服に悪いことをしたと悔いた。
メモ書きの怒りようから、画鋲の針が刺さったことは間違いない。どのような座り方をしたのか分からないが、スカートの生地を貫いたはずだ。小さな針なので大したことはないと思われるだろうが、制服は緻密に織られているので、糸と糸の間に針が通ることは良いことではない。
「スカートに可哀想なことをしたな。ごめんね」
当時の私は、彼女の心の傷とスカートの傷、どちらが大きいものか考えもしなかった。
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最終更新日:2024年11月16日
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