特集3:かわいそうな一例


<新型コロナウイルス関連>

このところ新型コロナウイルスに関する話題が続いているので、それらをまとめたコンテンツを特集ページに新設することにした。



<何シーズンも耐えたダウンコート>

 ふっくらしてボリュームのあるダウンコートも、躊躇なく腰を下ろされて尻に敷かれたりしているうちにクタクタになってくる。それが何シーズンも続くとかなりの重労働だろう。 

 暖かい日が続くようになると、コートにとって運命を決する時が来る。クリーニングされてまた来年の着用に備えられるか、あるいはそのままゴミ袋に押し込められるかだ。

 昨今は衣類リサイクル専門店に持ち込まれる場合もあるが、買取りは重さで決まり、不幸にも着心地の良さを追求するあまり軽く作られたダウンコートなどは二束三文となる。何シーズンも使い込まれたコートは生地のへたりや黒ずみも多く、ダウンのコートは引き取りを拒否されることが多い。地域のリサイクルでもダウンコートはお断りとしているところがある。リサイクルの方法が限られていて、着用以外の道がないのである。

 果たして、何シーズンもの間、寒風の中で着用者を守るために必死に奉仕してきたダウンコートたちは、ゴミ焼却場へ行くしかない。



<後輩に着てもらえなかった制服>

 某有名私立女子大を卒業した知り合いが、在学中に着用した制服を後輩に着てもらうつもりでネットフリマに出品した。

 しかし、「卒業したのは何年か?」という質問はまだ良しとして、「男性でも購入してもよいか」とか、「クリーニングしないで送ってほしい」とか、挙句は「制服をコレクションしているので着用画像も添付してほしい」やら、「汚してもよいか」などいかがわしい質問が複数のIDから多数届いたそうだ。

 出品者の女性は怖くなって出品を取りやめ、制服はそのまま捨てられることとなった。在学中の着用回数は多くなく、まだじゅうぶんに着られる状態だった制服なのに、不埒な輩が罪もない制服を廃棄処分へと追いやってしまった。



<坂道の衣装>

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 〇〇坂という歌って踊る少女グループが人気である。激しい動きのダンスに、可憐なワンピースやスカートが振り回され、つまみ上げられ、蹴り上げられ、翻され、床に引き摺られる。

 観客たちの興奮のかげで、衣装たちは苦しみに耐えなければならない。曲が始まるたびに「また数分間の地獄が続くのか」と絶望的になることだろう。いやステージに上った瞬間から、あるいは少女たちに袖を通されたときから恐怖に震えているかもしれない。

 せめて、オフの時にしっかりメンテしてもらえていることを祈るばかりである。



<卒業間近>

 テカリや汚れが激しく、生地がくたびれている制服を着ている女子生徒を見かけると、最終学年なんだろうなと思う。そして、卒業式まであと何日あるのだろうかと数えてしまう。

 卒業したら、その子が着ている制服はどうなるのだろうか。

 おさがりやリユースルーム経由でまた同じ学校で酷使されるのか、延々と箪笥の肥やしになってカビだらけにされるのか、時々取り出されてブログにさらされるのか、宴会の余興などでオモチャにされるのか、売り飛ばされて性欲解消の道具にされるのか、あるいは、何の未練もなくあっさりと燃えるゴミに出されるのか。

 いったいどの道が、制服にとって少しでも幸せなのだろうか?卒業式が近づくと、いつもそんなことで悩んでしまう。



<和服慣れしていない成人式>

 成人式で和服を着るのは人生で2回目、七五三以来ですという女性は多い。和服に慣れていないので、振袖を着たときの所作もいい加減で乱暴だ。

 裾をバサバサと跳ね飛ばして歩くので、上質な正絹のすべすべ生地も傷んでしまうし、腰かけたときもお尻に敷かれる生地のシワを考えもしないし、優雅な長い袖は床にべったりと這わされる。もし天候不順だったりすると、雨や雪に濡れて台無しだ。

 成人式会場で同窓生たちと懐かしい対面を果たして、飲み会に行くときは、面倒でも私服に着替えていくがよい。慣れない和服で慣れない酒を飲むと酔いも早く回り、晴れ着にべったりとゲロを吐きこぼすという所業は、意外とふつうに見られる光景である。

 また、男女で盛り上がって、ラブホテルへ駈け込んでしまう若者もいる。粋なホテルは心得ていて、着付けをして送り出してくれるところもある。部屋で何が行われたかは、男女と振袖のみが知っている。

 成人式の日の着用される振袖たちの価格はピンキリで、買取りやレンタルなど背景もまちまちだが、レンタル衣装のほうが扱いが乱暴になるのは仕方のないことなのか。

 中古衣料品店では、レンタル落ちと思しき華麗な振袖が、二束三文で投げ売りされている。それをそっと手に取って、怪しいシミを見つけると涙が出そうになる。



<着用制服の予約販売>

 新年を迎えると、最終学年の女子生徒たちは受験やらなんやらで忙しくなる。3月の卒業式も間近となり、冬の制服たちが着てもらえるのも数えるほどとなる。

 そんな中で、フリマサイトなどでは早くも女子生徒たちによる「制服の予約販売」が始まっている。はっきりそれとは書いていないが、「商品をお送りするのは3月に入ってからとなります」と説明がある。さっそく興奮を抑えきれない男性たちが群がる。

 当の制服はそんなことを知る由もなく、毎日、女子生徒のために頑張って着用されている。卒業後の進路が早めに決まることは、女子生徒本人のことなら喜ばしいことだが、制服の運命が地獄行きと早々に決まってしまうのは見るに堪えない。

 卒業式が終わっても、3月末までは学校生徒のはず。それなのに制服のほうは、性欲解消の玩具と化してしまうのだ。

 制服をこのように扱う女子生徒の夏服はというと、衣替えを迎えるとすぐに手放されて、すでに手元にはないだろう。



<大掃除のゴミの中>

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画像:Pinterest

 学校卒業後、要らなくなった制服もとりあえずはクローゼットに保管される。しかし、出番があるとすれば、高校時代の制服を着る「制服ディズニー」か、飲み会の余興に使われるかであろう。やがて使い道もなくなり、邪魔者扱いされるようになると容赦なく処分される。

 所詮は古着で、学校制服も例外ではなく、衣類ゴミか燃えるゴミで出されることになる。だが、セーラー服は別格だ。

「もう捨ててもいい?」母親は念のために娘に聞く。「いいよ」と何の未練もなく娘は答える。

 母親は、セーラー服が変な人に拾われて気持ちの悪いことをされないよう、捨て方に工夫を凝らす。

 まず大きく切り裂いてから、生ごみの汁や油、醤油を垂らし、ペットの糞を擦り付けて雑にゴミ袋に放り込む。裂かれたセーラー服は着用できないだろうし、生ごみの汁や油は洗っても落ちない。ペットの糞は嫌な臭い付けになるという。新聞紙ですっぽり包む例もあるが、自治体によっては中身が見えないと回収してもらえないので、晒し者のごとく丸見え状態だ。

 現役時代に酷使に耐えながら学校生活を支えてきたセーラー服も、感謝されることなく惨めな最期を遂げる。年末の大掃除シーズンには、このような衣類ごみが大量に排出されている。袋の中からは、息も絶え絶えになった衣類たちの助けを求める声がかすかに聞こえる。



<三姉妹の制服>

 ある地方都市に三人の娘が住む家庭があった。三姉妹とも同じ地元の公立中学校に通ったのだが、年齢が絶妙に離れていて、長女が着た制服をお下がりで次女が着て通学し、次女が卒業すると三女がそれを着て通学した。

 セーラー服とジャンパースカートという冬服は、三姉妹で合計9年間の着用に耐え抜いた。だが、いかに丈夫にできているとはいえ、全身テカリが酷く、ラインもところどころ剥がれてしまった。

 夏服のブラウスは、女子中学生たちの汗や皮脂に耐えかねて、さすがに三姉妹それぞれに新しいものが購入され、古いものは予備として保管されていたという。

 長いあいだこき使われた冬制服と夏制服一式は、三女が卒業すると待ちかねたようにゴミとして処分されていく。テカテカに光った冬服も、黄ばんでへとへとになった夏服も、感謝の言葉もなく、思い出を語られることも無く、「収納スペースが空いてよかった」の一言で・・・。



<ハロウィン仮装>

 ハロウィンのシーズンになると気が重い。仮装のために、制服やドレスなどが加工されるからだ。多くは、制服の夏服やナース服、ウエディングドレスなど白い生地の衣類が、血糊で汚され、あちこち切り裂かれる。

 自分で着るために加工されることもあるが、ネットで販売するためにズタボロにされるものもある。

 ある高校3年生の女子は、最後の夏を終えて早速不要になった夏服を衣装に加工してしまった。制服にしてみれば、卒業もまだなのに、なぜ散々汚されなければならないのか、不思議で堪らないだろう。こうして惨めな姿にされた制服は、1回だけの仮装に供された後、そのまま捨てられるか、ネットで転売されてしまうのである。

 それにしても、ハロウィン仮装には何ゆえゾンビ系が多いのだろうか。衣類をズタボロにするのがそんなに快感なのか。ハロウィン当日は、苦しみの声を上げる衣類たちで街はあふれる。



<中高一貫校の制服>


 お下がりで使いまわされなくとも、中高一貫校で着用される制服は長期間の酷使に耐えねばならない。一人の女子生徒が入学から卒業まで6年間、同じ制服を着るというのは当たり前にあることだ。

 写真は、都心のお嬢様校の制服スカートだが、ひとりに着用されただけで全身テカテカにされている。ふつうは裏側にはテカリができないものだが、着方が雑だったのか、座り方のせいなのか、裾裏にもテカリが付いている。

 また、ヒダを広げると、日焼けによるものだろうか、ところどころ変色もある。可哀想に裏地もグッタリしているように見える。ここまで使い込まれると、さすがの制服スカートも、卒業式を終えたらもう勘弁して欲しい、と叫んでいただろうか。


<譲渡会に出されるおさがり>

 幼稚園児を持つ家庭まだ若く、収入も多くなく、節約志向が強い。幼稚園の制服にもお金を掛けたくない。

 某幼稚園では保護者が自主的に制服譲渡会を行い、制服を使いまわす。用済みとなったら捨てられてしまう制服をリユースすることは好ましいのだが、持ち寄られた制服のなかには、何人もの女児たちに使いまわされてテカテカ、クタクタになっている物もある。

 また、別の園の制服も紛れ込むことがあるが、それらは制服として使われることはなく、縫いぐるみの衣装になるか、運が悪ければ、自動車のエンジンルームを掃除するときの雑巾にされてしまう。

 そういえば、セーラー服はラインが邪魔してウエスにしにくいので、糞尿処理のバキュームカーの中を掃除するのに使っていたと聞いたことがあるが、現在はどうなのだろうか?



<断捨離の行く末>


 学校制服は卒業したら用済みとなる。しばらくはクローゼットにしまいこまれることが多いと思うが、その様子は家庭によって実に千差万別である。クリーニングもされずに放り込まれていると、あっというまにカビだらけになる。クリーニングされたものも、断捨離と称して、あっけなくゴミ箱へ放り込まれる。可燃ごみの日に出せば、そのまま生ゴミと一緒に灰にされるし、衣類ゴミの日に出せば、リサイクル工場へ送られて、切り刻まれて粉砕されていく。

 学校生活時代には、シーズンごとにクリーニングされていた制服も、埃だらけとなり、山積みにされた挙句、鉄の爪の犠牲となる。誰にも顧みられない哀れな存在だ。

 裁断を待つ制服たちは、酷使されてテカリがひどい物が多いが、埃にまみれてテカリもかき消されている。番が来たら、上着もスカートも、冬服も夏服も区別無く、裁断機に放り込まれる。卒業式に左胸につけてもらった卒業生の証のコサージュも付いたまま、小さな布切れとなっていく。

 聞いた話では、学校嫌いの女子生徒が、卒業式から帰宅するや否や、制服を脱いでそのままゴミ箱に投げ込んだという。また、学校への恨みが昂じて、自らの制服をずたずたにしたという例もある。八つ当たりされる制服も可哀想で堪らない。


<ウエディングドレスの実情>

 ウエディングドレスは、スカートの裾(トレーン)を長く引くものが多い。一見優雅に見える姿だが、可憐な生地がずるずると引き摺られるのに胸を痛めている人がいるだろうか?

 酷使されたレンタルドレスを見ると、引き摺られた裾は汚れや傷みで悲惨なことになっている物が多い。

 屋外での撮影となると、ウエディングドレスは、相当な汚れに耐えなければならない。花嫁を引き立たせるために、綺麗なドレスの裾が汚れるのも構わずに、平気で地面に広げられたり引き摺られたりする。ドレスは消耗品に過ぎず、所詮、道具扱いなのだ。



<スカート裏地の悲劇>

 スカートは頻繁にお尻に敷かれる運命の衣類だが、なかでも制服のスカートなど着用頻度が高いものはたいへんだ。

 表地のテカリはもとより、裏地はさざなみ状のシワがたくさんでき、縮みあがってしまうこともある。生地が摩耗して毛羽立ってしまったり、引っ張りテンションにより、縫い目が裂けたりもする。こうなるとクリーニングに出しても完全復活は難しい。外からは窺い知れないダメージだ。

 学校制服のスカートに、裏地が付いているものは比較的珍しい部類に入るが、女子生徒によっては、そんな貴重な裏地を嫌って切り取ってしまう場合がある。裏地の存在意義のひとつに表地をサポートするというのがあるが、裏地が無いと表地の疲労も大きくなるはずである。



<企業制服の運命>

 企業制服には卒業が無い。なので、一度着用され始めたら、何年使われるかは分からない。長いものだと10年ぐらいは平気で酷使される。逆に新入社員ですぐに辞めたら、1年以内でお払い箱にされる制服もあるだろう。

 そして、急に行われるモデルチェンジもある。企業によっては頻繁だ。モデルチェンジされたら、古いものはもちろん新しいものも、あるいは新品未使用のものもあっけなく処分される。

 写真は某大手企業の女子制服だが、この手の制服はなぜかベストの前のテカリが酷い。デスクに当たるせいだろうか。テカリが酷ければ酷いほど、仕事ができるベテラン女性とみなされる。制服はテカリが酷いほどグッタリしているというのに、まるでそれを誇るかのようだ。



<日焼けに耐える店頭展示品>

 ショーウインドウや店内に展示されている衣類は華やかに見えるが、実は苛酷な環境に置かれている。

 写真はシンガポールの土産物店店頭に展示されているチャイナドレス。よく観られる光景に、通り過ぎる人たちは気にも留めない。だが、そこはとてもシビアな環境なのだ。強い日差しに毎日、一日中晒されているので、近くで見ると上半身のほうは酷く日焼けしてしまっている。

 特に右側の赤いロングチャイナドレスは悲惨だ。もともと美しく輝いていたツルツルのサテン生地のドレスだったはずだが、肩から腰の辺りまで、褪色してしまっていた。それでもなお、店頭で晒し者にされ続けている。

 店主に聞くと、太陽光が当たり続ける場所なので、ほんの2ヶ月ほどしか出していないのにすっかり日焼けしてしまったとのこと。実に痛々しい姿である。

 これは極端な例だと思うかもしれないが、店内にあっても、ガラス越しに西日が強く当たる場所に置かれると生地の劣化は避けられない。田舎の洋品店で、地元中学校の制服を置いていたのを観たことがあるが、濃紺だった冬服が日焼けで茶色く変色していた。毎年、制服新調の時期になると引っ張り出されている。それは生地が朽ちて裂けるまで続くであろう。

 さて、上で紹介した哀れなチャイナドレスであるが、あまりに可哀想だったので、店主と交渉のうえ、いくらか支払って救出してきた。今は私の自宅の日陰で、ヒリヒリの肌を休めてもらっている。



<野ざらしにされるサテン生地>

 某所の道路わきに、柱のコンクリート束石(基礎石)を包まされているサテン生地を見つけた。デコレーションの一環なのか、その通りのあちこちに規則正しく置かれている。

 サテン生地は、ときどき吹いてくる風に揺れ、陽の光を受けて艶々と輝く。柱の元は生地同士でしっかりと結ばれている。

 完全な野ざらし状態で、日焼けもするし、雨にも晒される苛酷な環境だ。鳩の糞も落ちている。綺麗なサテン生地なのに、何が悲しくてこのような目に遭わされることになったのだろうか。

 やや厚手のしっかりした生地なので、普通は高級な女性衣類の裏地やドレスにでもしてもらえたかもしれないのに。