成人以降に見聞したことや体験したことなどを中心に、女性衣類に関する話題を記す。
もうずいぶん昔の話になるが、小さな女の子がビンタされているのを間近で見たことがある。
ある大きな書店の売り場に、小学生の姉妹らしい二人組がいた。姉は5年生、妹は2年生ぐらいだろうか。何があったか知らないが、そばにいた父親らしき男性が、いきなり姉の頬にかなりの力で平手打ちをしたのだ。妹は「あんなことしちゃいけないんだよね」と、父親にイイ子ちゃんぶりをアピールしている。
姉はピクリとも動かず、表情も変えない。父親は、何も言わずにさらに姉にビンタを食らわした。2発目はさらに強烈で、打たれた少女は、よろけて倒れそうになるのを踏ん張ってこらえた。涙ひとつこぼさない気丈な表情で、何も言わずに立ちすくんでいる。それが気に入らんとばかりに、さらに3発目が小さな頬に打ち下ろされた。
私がじっと見ているのを気にしたのか、父親はひとりでその場を離れていった。少し間があって、妹が後を追う。姉のほうは立ち尽くしたまま動かなかった。
始終を目撃していた私の心には、どうしてやることもできないもどかしさだけが残った。今でこそ、児童虐待は大きな関心事であり、法律的にも規制が掛かっているが、当時は親が子供を叩くなどということは普通に行われていた。
とはいえ、あのシーンは酷いと思った。あの少女は、なにゆえ3発も殴られなければならなかったのだろう。私が見つめていなかったら、もっとひどい目に遭ったかもしれない。
たとえ少女が悪いことをしたとしても、男性がかなりの力を込めて3発も殴るに値するほどの罪だったのだろうか?過剰で理不尽な仕打ちではなかったか。
この出来事とほぼ同じころ、路上で、若い母親が5-6歳ぐらいの小さな女の子を叱りつけ、腕をつかんで引きずるように歩いていくのを目撃したことがあった。母親はヒステリックに怒鳴りつけ、「ごめんなさい、ごめんなさい」と何度も謝っている少女の腕をつかんで振り回している。ときどき髪の毛をつかんで引っ張ったり、小突き回したりしていて、まるでリンチだ。
少女は何度も声に出して謝っている。泣きじゃくる声がかすれるほど叫び、息が出来なくなって、たびたびむせるように咳もしている。それなのに母親は容赦がなく、まるで古い毛布を引きずるかのように少女を連れて行った。
ここでも私は見ているだけだった。
悪いことをして謝っている子は、もう罪を償っている。それなのにあの仕打ちは残酷だ。私はまたしても、可哀想な女の子を見過ごしてしまった。
これらの出来事を思い出すにつけ、女性衣類とどこか共通する部分があるように感じるのだ。
私が少女たちを助けられなかったのは、その子たちが別の親の子だからだ。他人の家庭に属する子たちなので、口出しができなったのだ。他者の干渉は許されない状態だったのである。
女性衣類についても同じようなことが起こる。
たとえば、下校中の女子高生が、制服のブレザーを通学カバンにぐしゃっと押し込んだとする。会社で女子社員が、デスクの上に脱ぎ置いていた制服の上着の上に、重そうな荷物を置いたとする。どの衣類たちも苦しそうだ。
しかし、これらは私が手出しできない事案なのである。「衣類たちが苦しんでますよ」と助けの手を差し伸べることはできないのだ。なぜなら、それらは他人の所有物であり、私には助け出す権利がないからだ。
子供のしつけは親がするもので、どのように扱おうと親の勝手。という考えと同じく、衣類は自分が着るために買ったもので、どのように扱おうと所有者の勝手、なのだ。
いかに可哀想な目に遭わされていようとも、他人の所有物である衣類たちには手出しできない。何とももどかしい話であるが、それが現実だ。
現在では、行き過ぎた「しつけ」は、かなりの程度まで干渉することが可能になっている。時代は変わるものだ。であれば、ぞんざいな扱いや酷すぎる扱いを受けている衣類も、他人の持ち物であっても気軽に注意できる、あるいは救出や保護ができる、そんな時代が来ることがあるかもしれない。
昔は貴族の身を過剰に飾る毛皮を取るためや遊戯としてのハンティングのために、動物たちが無意味に狩られていたが、今や、闘牛でさえも動物虐待のやり玉に挙げられる。江戸幕府によって公認されていた遊郭も今は無い。以前は社会の常識だったことが、今では非常識となりうるのだ。
であれば、衣類たちも解放される日が来るやもしれぬ。衣類の尊厳を守るよう、「衣類虐待防止法」のようなものができるかもしれぬ。そうなったら、女子高生が椅子に座るときはスカートのプリーツを崩さないよう配慮が求められるだろう。古着をリメイクするときは政府の許可が必要になるだろう。映画で衣装が血まみれになるのも見られなくなるだろう。性欲解消目的で中古衣類が売買されることも禁止になるだろう。着衣での性交も規制されるだろう。
こんな途方もないことを考えている人は、他にいるだろうか。
ずいぶん前(2010年ごろ)に観た、テレビのバラエティ番組のことをふと思い出した。民放ローカル局の深夜番組で、ほとんど売れていない芸人たちが集合していたのだが、その中の一人、筋肉を売りにするマッチョ男性芸人(ジャスティス岩倉)が、サイズの合わない小さなシャツを着て登場する。
それを見た女性芸人ががっくりと膝を落とし、驚いて声を上げる。
「うそ~!・・・これ私の服です・・・」
よく見ると、マッチョ芸人が着ているのは女性用の白いブラウスだ。肩あたりにタックが入った、フェミニンで可愛らしいブラウスだった。それが筋肉モリモリの男性の素肌に着用されている。サイズが極端に合っておらず、着ているだけでパッツンパッツン、少しでも動こうものなら脇のあたりが裂けそうだ。よく袖を通せたものだと感心する。
ブラウスの持ち主は女性二人組の漫才コンビ(ぷち観音)のひとり(松原陽子)で、小柄で美人顔だ。アイドルだったときのカワイイ衣装を事前に持ってくるように言われたという。チェック柄のプリーツスカートもセットで持ってきたようで、それもマッチョ芸人に穿かれていた。
ブラウスは、汗臭そうなマッチョ芸人に袖を通され、しかもサイズがキツキツ。さぞや嫌な思いでいることだろう。残酷なことをするものだ。可哀想に。だが、番組はそれで終わらなかった。
司会者が「それ今から破くんだもんな」というと、「ヤダヤダヤダヤダ、マジで破かないで!」と女性は訴えるが、聞く耳は持ってもらえない。
「これは普通の服じゃなくて、私がアイドルだったときに着てた・・・」と言いながら、必死で両手を合わせて許しを請う。しかし、マッチョ芸人は司会者に促されて、体勢を整え、パフォーマンスをする構えに入る。
「え?え?」と女性は床にしゃがみ込んだまま必死で助けを請う。
マッチョ芸人は前かがみになり両腕を抱え込むようにする。肩や背中の筋肉が盛り上がると、哀れにも、白いブラウスの肩が裂け、背中が割れた。裂け目から糸がぴんぴん跳ね出ている。どう見ても修復不能だ。
女性芸人は半狂乱になっているが、誰も止めはしない。マッチョ芸人は何度か同じポーズを繰り返したあと、ブラウスの前合わせも引き剥がす。ボタンは下から4つほど留められていたが、容赦なく開かれていく。前合わせのボタンホールも裂けていたようなので、ボタンも弾け飛んだであろう。横で叫ぶ女性芸人の姿が痛々しい。まさしくイジメ以外の何物でもない。
可愛らしい女性に着用され、ステージに上がっていたきれいなブラウスなのに、マッチョ男性に無理やり着られ、あろうことか、内側から破損されていく。こんな残酷なことがあろうか。しかもそれがテレビで放送されたのだ。
持ち主だった女性は半泣き状態になっている。果たして、どこまでが本気でどこまでが演技かは分からない。女性も芸人である。派手なリアクションで売り込もうという気が合ったかもしれない。だが、ブラウスが惨殺されたことは事実である。大きな犠牲が払われたのだが、あの女性芸人をテレビで観たのは、あのとき限りである。
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最終更新日:2024年11月16日
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