廃棄処分 ~断捨離の名の下に~

やましたひでこが著書のなかで唱えた「断捨離」という概念が流行ったせいで、今までクローセットなどに保管されていた制服やドレス、そのほかの私服たちが情け容赦なく処分されることが多くなった。処分に至るまでの心境をネットのブログなどに書いている人は多いが、その衣類にまつわる思い出を語るばかりで、さよならする衣類のことを可哀想に思うような表現はほぼ皆無だ。ごく僅かに感謝の念を記している場合があるが、数えるほどしかないのが残念である。

また、近藤麻理恵が『人生がときめく片づけの魔法』という本を出したおかげで、「ときめくものだけを残す」という思想も、多数の制服や私服処分に拍車を掛けている。

しばらくクローゼットで眠っていた衣類がある日突然取り出され、一瞥されただけでゴミ袋に放り込まれる。そんな悲劇が日常的に行われているのだろう。

 

処分、回収、リサイクルなどと都合の良い言葉で表現される衣類の整理だが、それは衣類たちにとっては「殺される」ことを意味する。ごみ焼却場に送られると高温で火あぶりにされる。リサイクル工場に送られると鉄の爪で裂かれたり、高速カッターで切られたりする。ウエスにされると工場の廃油や汚物をべったり付けられて捨てられる。ゴミ集積所で変質者に拾われると、毎日のように性的暴行を受け続けなければならない。いずれも死に直結する。

「断捨離する」とはつまり「殺す」ことであり、「もうときめかないから残さない」とは「生かしておく意味はない」ということなのだ。その残酷さに気付かなければならない。

画像:防災セーラーTwitter

https://twitter.com/bousaisera


ただ誤解のないように申し添えると、先の近藤麻理恵の片付け術は衣類を虐待することを本意としていない。

彼女の片付け術は「こんまり流」という一種の流派になっていて、門下生のコンサルタントも大勢いる。こんまり流では自分の衣類への感謝の念も忘れない。海外でも爆発的に有名になったこんまりだが、近藤麻理恵自身が語るところによると、特に欧米人は「物」に感謝するという概念がないらしい。日本人は古来より八百万(やおよろず)の神々信仰があるおかげか、物に対しても敬意と感謝の念を持ちやすいのだろう。なので、海外講演で「捨てるものに感謝の気持ちを示す」と言うと驚かれた、ということに彼女自身驚いたと告白している。

「物(ここでは衣類)に対しても感謝の気持ちを忘れない」という基本は門下生にも受け継がれている。我々はこんまりの片付け術をうわべだけたどらずに、こうした神髄までも習得してから片付けていかねばならない。

 

こんまり流のこうした概念については、2022/05/08付けでsecret7様よりいただいたメールであらためて気付かされた。メールには次のような動画リンクがあり、その中に「手のひらから『ありがとう』と伝えながらアイロンします」という表現が出ていることを指摘していただいている。

https://www.youtube.com/watch?v=gg7tAhidCuY&t=22s

同氏はメールに「たったそれだけではありますが、それでもそれだけでこの方の衣類への暖かい気持ちというものを汲み取ることができ、私も暖かい気持ちになることができました。

世の中、この方のような考えの人が多くなればと思います」と書き添えてくださっているが、まさにその通りだと思う。


学校制服

学校制服は、基本的には卒業したら不要品扱いとされる。今でこそリサイクル・リユースの概念が定着しているが、ひとむかし前は、学校の制服は進学予定の子に譲るか、ゴミとして処分するかしかなかった。

使い込まれた制服は生地の傷みも激しいので、リメイクには適さない。使うとすればウエス(油などを拭き取る使い捨ての布)ぐらいであろう。比較的きれいなブラウスだったら、体操服のゼッケン(名札)に使ったりしていた。

3年ものあいだ酷使された制服のスリーピース(上着、ベスト、スカート)が知人宅に吊り下げられていた。卒業式のあと、クリーニングされることも無く、数ヶ月間クローゼットに押し込まれていたものだ。長袖のブラウスは2枚あったが、一枚は卒業式の直後にすぐにゴミとして捨てられたという。

もう一枚の長袖ブラウスはというと、前年の秋の衣替えのときに、夏服の半袖ブラウスとともに早々に処分したらしい。あっけない話である。夏スカートは後輩に譲ったというから、それはその後も現役で使われているのだろう。

さて、写真のスリーピースの冬制服、もう要らないのでいよいよ処分することにしたようだ。

このまま燃えるゴミに出そうというのだ。

外見上は目立った解れやすり切れなど無く、まだまだ使えそうな制服だ。しかし、使ってくれる後輩を探すのも今さら面倒だということで手っ取り早く捨てることにしたようだ。

ただ、このままゴミ袋に入れるのは怖いという。上着の裏に苗字が刺繍されている。卒業生の母親が、何の躊躇いも無くハサミで切り取った。スカートに手書きで書いた名前は塗りつぶした。ベストには記名は無い。

制服一式は、これで着用者だった女子と完全に縁を切られた。

母親はさらに酷いことをした。「もし変な人に拾われたら嫌だから」という理由で、制服を縦横に切り裂いた。制服は丈夫にできているから、ふつうのハサミでは切るのもたいへんだし、手で裂くのも力が要った。それは制服の最後の抵抗のようにも思えた。だか、制服も力尽き、もう2度と着られない姿になった。

母親は止めを刺した。古新聞の上に布切れとなった制服を並べて、天ぷらの廃油を垂らして染み込ませ、生ゴミを少々包ませてからゴミ袋に投棄した。先ほどまで高校の制服だったものはあっというまにゴミとなった。


制服の廃棄業者の下では、何の躊躇いもなく裁断されていく。




職業制服

企業の場合、制服はほとんど貸与品として扱われる。入社時に貸し与えて、退職するときには返却する義務がある。が、公的機関や航空会社のように制服がID代わりにもなるようなところは別として、貸与した制服を厳密に回収しているところは多くないだろう。

オークションで高値で売れるようなウエイトレスの可愛い制服は、退職してからも「必ず返却してください」と念を押されるらしいが、会社を辞めてしまってから手元に残った制服に気づき、制服を返すためにわざわざ出社するなんて殊勝な人はどれほどいるのか。たいていはほとぼりが冷めたころにそっと燃えるゴミとして出すことだろう。もし会社に連絡したところで、「今度機会があれば持ってきてくださればけっこうですよ」とか、「そちらで処分してくださって構いませんよ」となる。

 

制服の基本アイテムは無償支給しているという会社もある。

また、制服一式の1セットは無償で支給するが、追加分は有償になっているところとか、最初から有償で買わせるところもある。これらの場合はたいてい返却義務は免れているので、各自で処分することになる。処分といっても様々で、後輩に譲るとか、ネットで売るなどの方法もあるが、たいていはしばらくタンスの肥やしになったのち、ゴミとして処分されるのであろう。それが証拠に、ゴミ集積所を観ると、色んなタイプの職業制服が捨てられているのを目にしてきた。事務服やナースはもちろん、ヤクルトレディなどもあった。ふつうの私服もバンバン捨てられているなかで、用済みの制服などあっけなく処分されるのだ。

 

職業制服は、その職業についていない人にとっては無用の長物でしかないので、仕事を辞めてしまったら不要品となり、結局、捨てるしかないのである。


航空会社CA制服の昔と今

セキュリティが厳しくなった現在では、CA制服にもICチップが埋め込まれたものがあるなど厳密に管理されていて、退職後には必ず返却させるようになっている。しかし、ひとむかし前はそれほど厳しいものではなかったらしく、会社のほうも「退職者のほうで処分してください」と言っていたらしい。それで、退職者は記念に1セットだけ取って置いて、あとは自分でハサミを入れてゴミとしてポイしていたという証言がある。

 

また、JALの5代目CA制服などは、モデルチェンジしたときに業者に大量に払い下げられ、イメクラのような水商売へ流れて、いわゆる本物制服を着たキャバ嬢が接待してくれる場所もあった。今となっては考えられないほど悠長な話である。


断捨離の犠牲者たち

インターネット上で見かけた衣類処分の実態を紹介しよう。

「今までどうしても捨てられなかった物。6年間着た娘の制服。
今回セーラー上下のみ残して息子の学ランと一緒に捨てることにしました。
置いていても何がどうなるって事ではないけどね・・・」

<うら爺コメント>土佐女子高校のセーラー服とコートだが、セーラー服は今回、命拾いした。ともに学校生活を過ごした仲なのに、コートはセーラー服と別れさせられ、今頃は成仏しているだろうか。とはいえ、セーラー服もいつまた処分されるか、ドキドキだ。



「中学の制服捨てる!さよなら思い出!後輩にボタンあげたのかな?ボタン一個もついてない(笑)でもそんな人気もなかったはず……。(笑)しかもネクタイ誰のww ずっとつけてたリボンが見当たらないよ~」

<うら爺コメント>笑マークがふたつも。処分される制服にとっては笑い事ではない。写真を撮られているときは何事かわからなかっただろうが、このあと丸めてゴミ袋に入れられたとき、己の運命を悟っただろうか。そう思うと、涙なしには見られない。



先週お兄ちゃんが卒業したので日曜日はお片付け\(^_^)/

おかあさんたら制服もさっさと捨てちゃった(^_^)/昨日お兄ちゃんに高校の入学説明会って中学の制服で行くんじゃないの?と言われ焦りまくり(^^;
でも危機一髪、ゴミ出しは明後日でした(^_^)V
女の子たちは何着か制服を持っている長女が今度中学に入学する次女に着れなくなった制服を譲り2人で試着(^^)

その様子を羨ましそうに見ていたPこに長女が自分の制服を着せてあげてましたo(^-^)o」

<うら爺コメント>卒業したらさっさと捨てられる。助かった制服も、おさがりでまた過酷な学校生活なのだ。犬に着せられてオモチャにされる制服も哀れ。



「まなっち(次女:大1)の高校時の制服や体操服など、保存していましたが、引き取り手がなく、体操服には高校の名前が入っていて、苗字の刺繍もしてあり、今後も使いにくいので、捨てました。」

<うら爺コメント>引き取り手をどれだけ探してくれたのか気になる。



「そんなこんなで自分ちもちょっと断捨離しようと思いずっと置いてた娘の制服を処分しましたえーん」 

<うら爺コメント>泣きマークは何を意味するのか。いつまでも大切に取っておいてほしかった。



「で、中高の制服出てきた!

中学のセーラー服

この数年着なくなったので、記録に残しつつ断捨離!

捨てましたー(=´∀`)人(´∀`=)

すっきり!!」

<うら爺コメント>捨てた人は気分がよさそうだ。捨てられた制服の苦痛なんてどうでもよいのだ。



「10月10日、まずは洋服を捨てるところから片付けに着手した。

オンシーズンも、オフシーズンも、コートに部屋着に下着まで、
持っているあらゆる洋服を全部、客間に積み上げる。
部屋にあったものも、納戸に寝かしていたものも、とにかく全部だ。
室内が足の踏み場もなくなり、しばし呆然とする。

気を取り直して、オフシーズンのものから1枚1枚確かめて捨てていった。
高校のセーラー服も捨てる。大学時代の海外遠征Tシャツも写メだけ撮って捨てる。
大学の頃にお気に入りだったプリーツスカートなども残っていた。12年前だって。。

かつてお気に入りだった洋服でも、もう着なくなったものにはさようならだ。
丁寧に畳みながら、捨てる洋服が積みあがる度に荷紐で束ねていく。
捨てる洋服は7束になった。ゆうに100着以上あるだろう。」

<うら爺コメント>ビニールひもで縛られた衣類たちが哀れだ。蝶結びが解かれる場所は、リサイクル工場なのだろうか。



「不要になった衣類をEcoとステーション高松中央店にて処分してまいりました。

衣類ゴミ置き場はちょっと奥まっているし、有人ステーションなので、通りがかりの人に漁られる心配もない、と思います。

今回、娘の着なくなったセーラー服を捨てたかったので、親心として考えすぎかもしれませんが、意図せぬ形で他人様に触れることなく捨てることができて、一安心です。」

「着倒したセーラー服です。

制服のリサイクルショップには持っていけません。袖口はすりきれてるし、プリーツも破れかけです。3年間のたまものです。

私の宴会用品として活用することも考えたのですが、宴会を興ざめにしてしまう効果しかなさそうなので、キッパリさよならすることにしました。宴会用にはまた何か他のものを考えましょうか。

おなじみの某ショッピングセンター南にあります。Ecoとステーション高松中央店です。

屋内で、衣類ゴミ置き場はその中でも奥まっているところです。

あ~~~スッキリした!しかも安心して捨てることができました。」

<うら爺コメント>どこへ処分しようと、結局は同じこと。元の持ち主の自己満足でしかない。制服にとっては地獄である。



ゴミとして捨てられた制服たち

YouTubeに、可燃ゴミとして捨てられた制服たちを写している動画がある。

マンションのゴミ集積所に出されているポリ袋を開けて、中身を確認していく。夏冬一式が適当に放り込まれているのを見ると、可哀想で堪らなくなる。なかには、ハンガーに掛けられたまま、くるっと丸められているものもある。ボタンは留めずに開かれ、ジッパーも下げられたままだ。校章が付いたままの上着を見ると、何の未練も愛着もないのかと問いたくなる。内ポケットのネーム刺繍が残されたままのものがいくつもあるのが、せめてもの救いだろうか。

屋外で回収されずに放置され、雨ざらしになっている制服たちを見たときは、さらに胸が衝かれた。何の罪もない制服たち、それどころか在学中は懸命に生徒を支えてきたのに、なんと冷たい仕打ちだろうか。

 

捨てられているアイテムは多彩だ。ブレザー、ベスト、スカート、セーラー服、ジャンスカ、ブラウス、セーター、リボンタイやネクタイ、体操服など、生徒ひとりでもこれだけたくさんのものが必要なのかと改めて驚く。さらに、ブラウスやスカートなどは洗い替えで複数用意されていたりする。学校も小学校から中学校、高校、そして、某女子大学のスーツ制服まであった。

 

大きな袋に雑に放り込まれた制服たちは、どれもみな、袋から引き出されたときは嬉しそうだ。

テカリを誇らしげに見せ、「私はこんなになるまで頑張って働いていたのよ」と叫んでいる。そして、艶やかで美しい裏地をキラキラさせて、「まだまだ働けますよ」と訴えているかのようだ。

つい先日まで女子に所有され、着用されて毎日学校へ通っていたのだ。着ないときはクローゼットで休んでいた制服たちだ。それが卒業して不要品となったら、躊躇なくゴミ袋に放り込まれ、生ゴミの匂いのする集積所に置いてきぼりにされてしまう。さすがの制服たちの、己の身に尋常でないことが起こっていることは察知するであろう。これが現実なのだ。

動画を観ると、学校名が分かるものがいくつかあり、ネトオクなどでそこそこ人気がある制服もある。そんなものたちがあっさりとゴミになっているのは、なんともむごい話だ。

助けて助けてと叫んでいるように見える制服もあるが、手の差し伸べようもないことに申し訳なさでいっぱいになる。

 

これらの動画は、なぜか出たり消えたりしている。もしホームを訪れたときに動画がアップされていたら、それはとてつもなくラッキーだ。

内容についてだが、本来、ゴミとして出されているものを許可なく拾得することは、占有離脱物横領などの罪に問われることがあるが、いずれも持ち帰ったりしている姿はない。ここでは、マンションの管理人などの仕事で、袋の中にゴミ出しルールに反しているものがないか、チェックしている映像だと解釈しておこう。取り出した制服は衣類リサイクルボックスに仕分けするか、あるいは、きちんと奇麗な袋に入れ直して、ゴミ焼却場送りにするかだろう。